旅途. by たいち


VOL9 まなざしの向こう側



さよならが遺してくれたものってなんだろう。

祖母が亡くなって二年。
この間、祖母の三回忌を終えた。


旅立つ影に涙を濡らし、
色あせた夢にそっと景色はふれ始め、
頬を伝って流れた祖母との想い出。


祖母との想い出は、僕にたくさんの出逢いをくれた。

人との出逢いの中で気づかせてもらったもの。
それは僕に涙をくれた。


あれは昨年のことだった。
目の見えないお爺さんお婆さんのもとでお話をさせて頂く機会をもらった。

それは僕には初めてのことで、不安や緊張で潰されそうになっていた。
そんな中、お爺さんお婆さんの待つ部屋へと足を踏み入れた僕は、そこに広がるゆったりとした空間に包まれていった。

そんなとき、
僕の口から出てきたのは祖母との想い出だった。

死ぬ間際まで、もうろうとなりながら、
「肉じゃが作っておいたから、冷蔵庫から出して温めて食べ。」
と言ってくれていた、そんな祖母との想い出だった。

すると、お話を聞いてくれていた一人のお婆さんが、僕にこんな言葉をくれた。
「天国で見とるに、きっと。あたしもな、孫おるんよ。声からすると、多分あんたよりは年上かな。きっとあたしもそうやけど、あんたがいつも笑っとる方が、天国にいるお祖母ちゃんも喜んでくれるから、いつも笑顔でおりよ。」

このとき、目の見えないお婆さんからもらったこんな言葉は、子どもの頃いつも見守ってくれていた祖母の温かなまなざしによく似ていた。

するとまた、そんなお婆さんの隣にいらした目の見えないお爺さんが、掛けていたサングラスを外し、
「兄ちゃん、どうや、わしけっこう男前やろ。」と言って笑顔をくれた。

僕はただ、そこに広がる温かなものに静かに包まれていた。


帰り際、施設から出てくると一人のお婆さんを見かけた。
先ほどまで、お話を聞いて頂いていたお婆さんだと分かり、僕はゆっくりと近づきこう言った。
「お婆さん、先ほどお世話になった、たいちです。今日は、ほんとに有難うございました。」

すると、九十をとうに超える目の見えない腰を曲げた小さなお婆さんは、小さな手で手すりを握り、僕にこう言って下さった。
「はい、有難うございました。ご苦労様でした。お体には十分気をつけて、元気でいて下さいね。」と。

この時の僕からは、「お婆ちゃんこそ」
なんて言葉は出て来なかった。

「お婆ちゃん、またここへ来てもいいですか?また、来たいんです。」と、僕は言っていた。


祖母が亡くなって二年が過ぎた。

そんなとき、僕は想う。
さよならが遺してくれたものってなんだろうって

旅立つ影に涙を濡らし、
色あせた夢にそっと景色はふれ始め、
頬を伝って流れた祖母との想い出は、
僕にこんな出逢いをくれた。

そして、人との出逢いの中で気づかせてもらったもの。それは僕に、守るべきものを訓えてくれた。





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